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東京2020パラリンピック競技大会を振りかえって

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新型コロナウイルスの影響で、史上初めて1年延期となった東京2020パラリンピック競技大会(以下、東京2020大会)が、令和3年8月24日に開幕。会場のある1都3県には緊急事態宣言が発令され、原則、無観客での実施となったが、9月5日までの13日間、22競技539種目でメダルを競い合った。

参加国・地域数など

 国際パラリンピック委員会は、過去2番目に多い161カ国・地域と難民選手団が東京2020大会に参加し、選手数4403人、女子1853人は史上最多と発表。日本選手も過去最多の252選手が出場した。

 日本での夏季パラリンピック大会は、1964年大会以来、2度目であり、東京は夏季パラリンピックを2度開催する初めての都市となった。

開会式

 国立競技場で行われた開会式のコンセプトは、「WE HAVE WINGS(私たちには翼がある)」。翼が一つしかない「片翼の小さな飛行機」に扮した少女が登場し、パラアスリートには、どんな困難も力に変え、飛び立てる翼が備わっていることを表現した。

 入場行進は、各国・地域の日本語表記の50音順で行われ、選手たちは全員マスクを着用。選手が揃うと、日本の主将で車いすテニスの国枝慎吾(くにえだしんご)選手、副主将でゴールボールの浦田理恵(うらたりえ)選手が選手宣誓をした。

 聖火リレーの最終走を務めたのは、車いすテニスの上地結衣(かみじゆい)選手、パリ2024パラリンピック競技大会での活躍を目指すボッチャの内田峻介(うちだしゅんすけ)選手、パワーリフティングの森崎可林(もりさきかりん)選手の3人の車いす選手たちだ。3人は聖火を引き継ぐと、一斉に太陽をモチーフにした聖火台に火をともした。

日本人選手の活躍

 前回のリオ2016パラリンピック競技大会(以下:リオ大会)で日本選手団は、金メダルゼロだったが、東京2020大会では金13個を獲得した。銀メダルは15個、銅メダルは23個で、総メダル数は51個に上り、過去最も多かったアテネ2004パラリンピック競技大会の52個に迫って大きく前進した。

 金メダル獲得で目立ったのは、経験豊富な選手たちの力だ。

 5大会連続出場の鈴木孝幸(すずきたかゆき)選手は、8月26日、競泳男子100m自由形(運動機能障害S4)を制し、日本第1号の金メダリストに。さらに出場した5種目すべてでメダルを手にした。

 同じく競泳の男子100mバタフライ(視覚障害S11)に出場した全盲スイマー木村敬一(きむらけいいち)選手も、北京2008パラリンピック競技大会から4度目のパラリンピックの舞台で初めて金メダルを手にした。

 陸上競技では、前回のリオ大会での悔しい銀メダルの経験を経て、「東京では二冠を獲る!」と公言していた佐藤友祈(さとうともき)選手が、その言葉通り、陸上男子400m(車いすT52)と男子1500m(車いすT52)で共に金メダルを獲得している。


 佐藤選手同様、前回のリオ大会で銀メダルを獲得し、悔し涙を流した女子マラソン(視覚障害T12)の道下美里(みちしたみさと)選手は、3時間0分50秒で金メダルを獲得して表彰台の真ん中に立ち、「悔し涙がうれし涙に変わりました」と喜びを語った。

 また、3大会連続出場のボッチャ個人(脳性まひBC2)の杉村英孝(すぎむらひでたか)選手が初優勝。車いすテニスでは、5度目のパラリンピックに世界ランキング1位として臨んだレジェンド国枝慎吾(くにえだしんご)選手が2大会ぶり3度目の金メダルを獲得した。

 さらに夏季・冬季パラリンピックを通じて、日本史上最年長の金メダリストとなったのは、自転車女子個人の杉浦佳子(すぎうらけいこ)選手だ。受障前から趣味としてロードレースに取り組み、今大会は50歳にしてパラリンピック初出場ながら、自転車・ロード女子個人ロードタイムトライアル(運動機能障害C1~3)と自転車・ロード女子個人ロードレース(運動機能障害C1~3)で2つの金メダルを獲得する快挙を成し遂げた。

 もちろん、経験豊富な選手のみならず、若手たちの躍動も印象的だった。

 今大会から新競技として採用されたバドミントンでは、14種目のうち、金3個を獲得。金メダルを手に入れたのは、男子シングルス(車いすWH2)で19歳の梶原大暉(かじわらだいき)選手と、女子シングルス(車いすWH1)で23歳の里見紗李奈(さとみさりな)選手、女子ダブルス(車いす)で33歳の山崎悠麻(やまざきゆま)選手だ。里見選手は、シングルスと山崎選手と組んだダブルスで2冠を達成した。

 競泳では、20歳の山口尚秀(やまぐちなおひで)選手が男子100m平泳ぎ(知的障害)で自身の世界新を塗り替え、「記録更新と金メダル。達成できてよかったです」と振り返った。

東京都栄誉賞及び都民スポーツ大賞を受賞したパラバドミントンの里見紗李奈選手

東京ゆかりの選手の活躍

 今大会には、東京ゆかりの選手62名が出場し、金1、銀4、銅14の計19個のメダルを獲得した。

 「生まれも育ちも東京です」というバドミントンの山崎悠麻(やまざきゆま)選手は、里見選手と組んだ女子ダブルス(車いす)で金メダルを獲得し、「小さいころからよく来ていた国立代々木競技場で戦えてうれしかった」と笑顔で語った。

 陸上競技の澤田優蘭(さわだうらん)選手(視覚障害T12)は、東京都立文京盲学校出身。性別も障害も異なる4人の選手が、 タッチで次の走者につなぐ新種目混合400mユニバーサルリレー(視覚障害、義足・機能障害、脳性まひ、車いす)に出場し、銅メダルを手に入れた。

 澤田選手は「切磋琢磨したリレーメンバー、コーチ、スタッフの皆さん全員でつかんだメダルです!」と胸を張った。

 このほか女子ゴールボールの天摩由貴(てんまゆき)選手(視覚障害)、車いすラグビーの長谷川勇基(はせがわゆうき)選手(肢体障害)も銅メダルに輝いた。

閉会式

 9月5日、オリンピックスタジアムで行われた閉会式には、約850人の選手・役員が参加しました。演出のテーマは「すべての違いが輝く街」。パフォーマンスや映像で東京2020パラリンピック競技大会の理念である「多様性と調和」が表現されていた。

 選手入場後にはフラッグハンドオーバーセレモニーも実施。パラリンピック旗が、小池百合子(こいけゆりこ)都知事から国際パラリンピック委員会のアンドリュー・パーソンズ会長を経て、次の開催地パリ市のアンヌ・イダルゴ市長に手渡された。

 聖火は、午後10時すぎに消え、57年ぶりに東京で開かれたパラリンピックは幕を閉じた。

東京都栄誉賞・都民スポーツ大賞表彰式

 10月26日、東京都庁において東京都栄誉賞・都民スポーツ大賞表彰式が行われ、東京2020パラリンピック競技大会においてメダルを獲得した、東京在住、在勤など東京にゆかりのあるメダリストたちに「都民スポーツ大賞」が、金メダルを獲得した選手には「東京都栄誉賞」が贈られた。

 小池都知事から表彰状を渡された選手たちを代表して、パラバドミントンの女子ダブルス(車いす)で金メダル、女子シングルス(車いすWH2)で銅メダルを獲得した山崎悠麻(やまざきゆま)選手と、車いすバスケットボールで銀メダルを獲得した豊島英(とよしまあきら)選手が感謝の言葉を語った。

山崎悠麻選手のコメント

 「東京都という自分が生まれ育った場所でのパラリンピック、そしてパラバドミントンが今回新種目として入り、出場することができ、たくさんの方にパラバドミントンを見ていただくことができました。その中で、パラバドミントンでは9個のメダルを獲得することができ、私も女子ダブルスで優勝、シングルスで3位という結果を残すことができ、本当に嬉しく思っています。私自身、子供が2人いる中でのパラリンピックでしたので、子供達にも、私が頑張っている姿を見せることができたことも凄く嬉しく思っています。今回、私たちがパラリンピックという場で活躍したのを見たことで、障害があっても、子供ができても、自分が楽しめること、打ち込めることを見つけて頑張っていけるということを伝えられていたらいいなと思いました。今後とも応援よろしくお願いします」

豊島英選手のコメント

「車いすバスケットボールは初めてメダルを獲得することができて、日本中、たくさんの方に応援していただいた結果が、こうやって(メダルを)物にすることができて、僕自身も誇らしく思っております。今後は、(車いすバスケットボールが)誰でも参加できるスポーツ、誰もが笑顔になれるスポーツになれるように僕自身も尽力してまいりたいと思いますので、今後ともスポーツ界に関わって、頑張っていきたいと思っております」

東京都栄誉賞・都民スポーツ大賞の表彰式で感謝の言葉を語る山崎悠麻選手(左)と豊島英選手(右)

日本代表メダル獲得数

金メダル:13個 銀メダル:15個 銅メダル:23個 合計51個

メダル 競技名 種目名 メダル数
金メダル 車いすテニス 男子シングルス 1
自転車 女子個人ロードタイムトライアル(運動機能障害C1~3) 2
女子個人ロードレース(運動機能障害C1~3)
競泳 男子100m自由形(運動機能障害S4) 3
男子100m平泳ぎ(知的障害)
男子100mバタフライ(視覚障害S11)
バドミントン 女子シングルス(車いすWH1) 3
男子シングルス(車いすWH2)
女子ダブルス(車いす)
ボッチャ 個人(脳性まひBC2) 1
陸上競技 男子400m(車いすT52) 3
男子1500m(車いすT52)
女子マラソン(視覚障害T12)
金メダル合計 13
銀メダル 車いすテニス 女子シングルス 1
車いすバスケットボール 男子 1
競泳 女子100m背泳ぎ(運動機能障害S2) 7
男子400m自由形(視覚障害S11)
男子200m自由形(運動機能障害S4)
男子100m平泳ぎ(視覚障害SB11)
女子50m背泳ぎ(運動機能障害S2)
男子50m自由形(運動機能障害S4)
男子100mバタフライ(視覚障害S11)
トライアスロン 男子(運動機能障害PTS4) 1
バドミントン 女子シングルス(上肢障害SU5) 1
ボッチャ ペア(運動機能障害・脳性まひBC3) 1
陸上競技 男子5000m(視覚障害T11) 3
男子1500m(視覚障害T11)
男子100m(車いすT52)
銀メダル合計 15
銅メダル 車いすテニス 混合上下肢障害ダブルス 2
女子ダブルス
車いすラグビー 混合 1
ゴールボール 女子 1
柔道 男子66kg級 2
女子70kg級
競泳 男子50m平泳ぎ(運動機能障害SB3) 3
男子150m個人メドレー(運動機能障害SM4)
男子200m個人メドレー(視覚障害SM11)
卓球 女子シングルス(知的障害) 1
トライアスロン 男子(視覚障害) 1
バドミントン 女子シングルス(上肢障害SU5) 5
女子シングルス(車いすWH2)
女子ダブルス(下肢障害、上肢障害)
男子ダブルス(車いす)
混合ダブルス(下肢障害、上肢障害)
ボッチャ チーム(脳性まひ) 1
陸上 男子5000m(視覚障害T11) 6
男子400m(車いすT52)
男子1500m(車いすT52)
混合400m ユニバーサルリレー (視覚障害、義足・機能障害、脳性まひ、車いす)
男子マラソン(上肢障害T46)
男子マラソン(視覚障害T12)
銅メダル合計 23

東京ゆかり※のメダリスト

※在住、在勤のほか、東京2020大会出場選手(JOC、JPC公表資料)から都が実施する事業に参加するなどし、承諾をいただいた選手

メダル 氏名 競技名 種目名
金メダル 杉浦 佳子 自転車 女子個人ロードタイムトライアル(運動機能障害C1~3)
女子個人ロードレース(運動機能障害C1~3)
木村 敬一 競泳 男子100mバタフライ(視覚障害S11)
梶原 大暉 バドミントン 男子シングルス(車いすWH2)
山崎 悠麻 バドミントン 女子ダブルス(車いす)
銀メダル 赤石 竜我 車いすバスケットボール 男子
木村 敬一 競泳 男子100m平泳ぎ(視覚障害SB11)
富田 宇宙 競泳 男子400m自由形(視覚障害S11)
男子100mバタフライ(視覚障害S11)
高橋 和樹 ボッチャ ペア(運動機能障害・脳性まひBC3)
銅メダル 菅野 浩二 車いすテニス 混合上下肢障害ダブルス
池 透暢 車いすラグビー 混合
小川 仁士 車いすラグビー 混合
倉橋 香衣 車いすラグビー 混合
中町 俊耶 車いすラグビー 混合
乗松 聖矢 車いすラグビー 混合
長谷川 勇基 車いすラグビー 混合
天摩 由貴 ゴールボール 女子
富田 宇宙 水泳 男子200m個人メドレー(視覚障害SM11)
伊藤 槙紀 卓球 女子シングルス(知的障害)
米岡 聡 トライアスロン 男子(視覚障害)
梶原 大暉 バドミントン 男子ダブルス(車いす)
藤原 大輔 バドミントン 混合ダブルス(下肢障害、上肢障害)
山崎 悠麻 バドミントン 女子シングルス(車いすWH2)
廣瀨 隆喜 ボッチャ チーム(脳性まひ)
澤田 優蘭 陸上競技 混合400mユニバーサルリレー (視覚障害、義足・機能障害、脳性まひ、車いす)
鈴木 朋樹 陸上競技 混合400mユニバーサルリレー(視覚障害、義足・機能障害、脳性まひ、車いす)

(取材・文/(株)ベースボール・マガジン社、撮影/椛本結城(かばもとゆうき))