特集READY STEADY TOKYO – パワーリフティング

東京2020組織委員会と日本パラ・パワーリフティング連盟(JPPF)共催のテストイベント「READY STEADY TOKYO – パワーリフティング」が、9月26日から2日間の日程で、東京2020大会本番会場の東京国際フォーラムで開催された。テストイベントは競技と運営のリハーサルを行うもので、今回は国際大会を兼ねて、観客を入れずに実施された。パワーリフティングは下肢に障害がある選手による、台の上に仰向けに横たわった状態でバーベルを持ち上げるベンチプレス競技。今大会は東京2020パラリンピックランキング(パラランキング)アップのチャンスとあって、海外の選手に加えて日本のトップ選手が顔をそろえた。



<男子>パラ出場権獲得目指し、複数選手が階級変更

 東京2020パラリンピックは男女とも10階級で行われる。標準記録を突破したうえで、まずは2017年の世界選手権メキシコ大会から来年4月のワールドカップドバイ大会までの国際大会の成績で決まるパラランキングで8位以内に入れば、出場内定となる。開幕まで1年を切った今、出場権獲得を目指す選手はさまざまな可能性に賭け、調整を続けている。
※参加選手のパラランキングについては末尾に記載


 リオデジャネイロ2016パラリンピック男子54㎏級日本代表で、7月の世界選手権ヌルスルタン大会8位の西崎哲男(にしざきてつお)(乃村工藝社)は、階級を変えて男子49㎏級に出場。第2試技で130㎏に成功し、銅メダルを獲得した。階級変更の理由を「東京2020パラリンピックに出場できる可能性がより高いから」と語る西崎。5月にジョン・エイモス日本代表ヘッドコーチと話し合って決め、ハンドサイクルなど主に有酸素運動に取り組んで徐々に体重を落とした。その分、パワーも減少し、第3試技では132㎏が挙がらなかったが、「今日の試技で三頭筋の筋力が落ちていることが分かった。次のトレーニングにつながる失敗だった」と冷静に分析する。目下の目標に、54㎏級の自己ベストである「142㎏」を掲げる。西崎は、「階級は違うけれど、一度上げた重量だからメンタル的には楽。迷わず挑戦していきたい」と話し、前を向いた。男子54㎏級では、世界選手権10位の市川満典(いちかわみつのり)(個人)が133㎏を挙げて銅メダルを獲得した。


西崎哲男は階級をひとつ下げ、男子49㎏級で出場した

 男子59㎏級は戸田雄也(とだゆうや)(北海道庁)が128㎏を挙げ、優勝した。世界選手権は65㎏級で出場したが、もともとの主戦場はこの59㎏級。今大会はライバルの動向と、自身の体重の推移や筋肉の付き方などを鑑みて階級を変更したといい、「この階級で勝負をかけるつもり。自分のベストを1キロでも更新できるよう、攻めていくのみ」と意気込みを語った。


 また、男子65㎏級では奥山一輝(おくやまかずき)(順天堂大)が日本記録保持者の佐野義貴(さのよしき)(EY新日本有限責任監査法人)、ベテランの城隆志(じょうたかし)(個人)を破り、日本人最上位の2位に入った。1回目に自己ベストとなる129㎏をマークし、3回目で標準記録を1㎏上回る136㎏に成功。ガッツポーズを作って喜びを爆発させた。奥山は伸び盛りの22歳。車いすテニスから転向した当初は思うように成績が伸びず、進退に悩んだこともあったが、身体が出来上がるにつれ安定した試技ができるようになった。心身の成長に伴い、今大会は59㎏級から階級をひとつ上げて臨んだ。新たなステージで結果を残した奥山は試合後、吹っ切れた表情で「来年、ここに戻ってきたい」と話し、笑顔を見せていた。


3回目の試技で標準記録を突破し、ガッツポーズを作る奥山一輝

<男子>己の限界を追求「1キロでも重く」

 世界選手権男子97㎏級代表の馬島誠(まじままこと)(日本オラクル)は、第1、2試技の失敗が響き、記録は3回目の154㎏に留まった。自己ベストが160㎏の馬島にとって不本意な結果となり、「標準記録の165㎏はもちろん、その上のレベルにもっていかないといけない」と悔しさをにじませながらも、「まだ伸びしろはある。(ランクアップ最後のチャンスとなる)ドバイに集中していく」と、奮起を誓っていた。


 昨年のアジアパラ競技大会男子72㎏級5位の樋口健太郎(ひぐちけんたろう)(個人)は、第1試技で175㎏を挙げ、自身が持つ日本記録を塗り替えた。続いて180㎏に成功すればパラランキング上位に食い込むところだったが、失敗に終わった。今年は「190㎏成功」を目標としている樋口にとって、180㎏は「通過点」。それだけに試技後は無念の表情を浮かべたが、気持ちを切り替え、目標達成に向け「技術の精度を高めていく」と話した。

 また、2大会ぶりのパラリンピック出場を目指す男子80㎏級の宇城元(うじろはじめ)(順天堂大)は、179㎏を挙げて3位。2016年の左肩に続き、昨年3月には左ひじを手術した。「2度目の手術は勇気がいった」が、バーを強く押せるようになった。宇城は完全復帰の途上にある今年を「自分への挑戦」と位置付けており、ベテランの経験を発揮し、パラリンピックに向けてより存在感を高めていくだろう。


宇城元はケガを乗り越え、2大会ぶりのパラリンピック出場を狙う

 3大会連続でパラリンピック出場を狙う男子88㎏級の大堂秀樹(おおどうひでき)(SMBC日興証券)は、190㎏に成功して金メダルを獲得した。現在、大堂はパラランキングで12位(195㎏)につけており、8位以内に入るにはあと10㎏ほど記録を上げる必要がある。「相当頑張らないといけない」としながらも、「(挙げる)イメージはできている。もう一度、この会場で君が代を聞きたい」と話し、前を向いた。


 男子107㎏級では中辻克仁(なかつじかつひと)(日鉄環境プラントソリューションズ)が194㎏で2位、男子107㎏超級は20歳でジュニアの松崎泰治(まつざきやすはる)(個人)が145㎏で4位だった。


独自のルーティンで集中力を高める中辻克仁

<女子>中嶋と坂元が標準記録を突破!複数選手が自己新や日本新を樹立

 女子50㎏級の中嶋明子(なかじまあきこ)(個人)は、第2試技で標準記録の62㎏に成功した。事前合宿で強化してきた成果が出たといい、「やっと世界と戦うひとつ目のドアが開けた」と手ごたえを口にしていた。また、女子73㎏級の坂元智香(さかもとちか)(メディケアアライアンスあおぞら病院)も自己ベストタイの72㎏に成功し、標準記録をクリアした。


 女子55㎏級の山本恵理(やまもとえり)(日本財団パラリンピックサポートセンター)は、第1試技で自己新の60㎏をマーク。第2試技の63㎏は挙上時の左右のバランスが若干崩れ失敗したが、3回目で再び挑戦すると、今度は3人の審判全員が成功判定。高い修正力を見せた山本は、「試技が安定して自分のものになってきた」と話し、自信を深めていた。また、女子61㎏級の龍川崇子(たつかわたかこ)(個人)は58㎏に成功、女子67㎏級の森﨑可林(もりさきかりん)(立命館守山高)は60㎏に成功し、それぞれ日本新記録を樹立した。


試技に成功し、エイモスヘッドコーチとタッチする山本恵理

16歳の森﨑可林はジュニア選手として着実に経験を積んでいる

 世界選手権女子41㎏級代表の成毛美和(なるけみわ)(APRESIA Systems)は、記録なしで失格。女子45㎏級は小林浩美(こばやしひろみ)(個人)のみエントリー。第2試技で57㎏に成功したが、第3試技で目標の60㎏を失敗し、「悔しい」と唇をかんだ。

劇場のステージにベンチ台、臨場感伝える演出が好評

 会場の東京国際フォーラムは、学会やコンサートなどが催される文化施設。テストイベントではステージにベンチプレス台が設置され、音楽や照明、映像を使って臨場感を演出した。選手からは「良い雰囲気だった」と好評だった。その一方で、ウォームアップ場から試合会場までの動線の複雑さや、競技フロアの車いす用トイレが1カ所しかないといった点の改善を希望する声があがった。


ステージ上の大画面や昇降式の表彰台など、観客席からも見やすい工夫がされていた

 組織委員会のスポーツマネージャーを兼務するJPPFの吉田進(よしだすすむ)理事長は、「選手の意見を集めて、組織委員会につないでいく。本大会はもっと工夫して、選手と観客が一体になって楽しめる環境を整えたい」と話した。


モーターの力で腰にかかる負担を減らす「パワーアシストスーツ」を着用して競技を支える補助員

進行面でも本番さながらのリハーサルが行われたテスト大会

(取材・文/MA SPORTS、撮影/植原義晴)

テストイベントに出場した主な日本人選手のパラランキング

※10/17時点で「World Para Powerlifting HP」に公開されているランキング

※今回のテストイベント結果は未反映


男子

階級 選手名 パラリンピック出場のための標準記録 パラランキング 本大会の記録
記録 順位
49kg級 西崎 哲男 105kg 130kg
54kg級 市川 満典 115kg 126kg 17位 133kg
59kg級 戸田 雄也 125kg 132kg 13位 128kg
65kg級 奥山 一輝 135kg 136kg
72kg級 樋口 健太郎 142kg 172kg 12位 175kg
80kg級 宇城 元 150kg 172kg 13位 179kg
88kg級 大堂 秀樹 157kg 195kg 12位 190kg
97kg級 馬島 誠 165kg 155kg 22位 154kg
107kg級 中辻 克仁 172kg 202kg 12位 194kg
107kg超級 松崎 泰治 180kg 137kg 17位 145kg

※西崎選手は54kg級で記録137kg(15位)

※奥山選手は59kg級で記録124kg(16位)


女子

階級 選手名 パラリンピック出場のための標準記録 パラランキング 本大会の記録
記録 順位
41kg級 成毛 美和 57kg 55kg 14位 記録なし
45kg級 小林 浩美 60kg 58kg 13位 57kg
50kg級 中嶋 明子 62kg 62kg
55kg級 山本 恵理 65kg 59kg 12位 63kg
61kg級 龍川 崇子 67kg 58kg
67kg級 森﨑 可林 70kg 55kg 15位 60kg
73kg級 坂元 智香 72kg 67kg 14位 72kg

※中嶋選手、龍川選手はランキング掲載無し


参照:World Para Powerlifting HP(https://www.paralympic.org/powerlifting/rankings

(パラランキングはRanking Type→Minimum Qualification Standard Ranking List→Tokyo2020-Qualification Standardで検索)