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都立学校活用促進モデル事業スポーツ体験教室

コロナ禍でも工夫を凝らして安全にスポーツを楽しもう

 東京都が実施している「都立学校活用促進モデル事業」では、都立特別支援学校の体育館やグラウンド等の体育施設を障害者スポーツ活動の拠点の一つとし、児童や生徒、地域住民ら、誰もが参加できる体験教室等を開催している。事業がスタートした平成28年度の実施校は5校であったが、5年目となる今年度は25校を実施対象としている(新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、10月末現在は屋外施設(グラウンド等)を有する9校で実施中)。年齢や障害を問わず取り組めるスポーツやレクリエーションの企画が好評を得ており、年々参加者やボランティアの数が増加している。今回はプラスチック製の円盤を投げて楽しむ障害者フライングディスク教室を取材した。

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今年度は屋外での事業を中心に展開

 今年度は、新型コロナウイルス感染症の影響で、屋内施設(体育館)の利用が当面中止となっている。取材に訪れた足立特別支援学校はグラウンドの貸出が可能になったことで、体験教室実施の運びとなった。また、参加者には事前にマスクの着用と受付での手指の消毒、体調管理チェックシートの提出を呼びかけ、感染拡大防止対策を徹底した。

受付では、参加者に手指の消毒を呼びかけた

 フライングディスクは、ディスクが一枚あれば、いつでも、どこでも、誰でも楽しめるのが魅力。1940年代にアメリカの大学生がパイ皿を投げて遊んだことが起源とされる。日本には40年ほど前に伝わり、障害者のスポーツとしても発展し、競技として確立。2001年から全国障害者スポーツ大会の正式競技となり、競技人口も増加している。フライングディスクは体験教室でも好評だ。

 今回は東京都障害者フライングディスク協会のメンバー5人が講師を務めた。競技としては、飛距離を競う「ディスタンス」と、正確さを競う「アキュラシー」の2種目があり、体験教室ではそれらを「楽しむ」ことを目的としている。講師たちはボランティアと連携を図りながら、屋外のメリットを生かしてグラウンドを広く使い、ゴール(アキュラシー)のほかにペットボトルに砂や鈴を入れた手づくりの目標物などを設置し、会場の準備を整えた。

「楽しさを競う」がフライングディスクの醍醐味

 秋晴れでさわやかな風が吹き始めた午後、参加者が続々と集まってきた。知的障害のある方や電動車いす利用者等16人、健常者5人、ボランティア6人、見学者・介助者12人の総勢39人がグラウンドに集合した。それぞれ、受付で手指の消毒をしたのち、名前を書いたシールを衣服に貼り、開講式に臨んだ。

 ディスクの投げ方はバックハンドスローが基本だが、規則はなく、自由に投げることができる。筋力の低下などの障害があっても、自分のできる握り方・投げ方で取り組めるのが、この競技の魅力のひとつだ。参加者同士でペアを組んで練習が始まると、講師が「やさしく投げよう!」「うまく取れたら、ナイスキャッチと言おうね!」とアドバイス。参加者たちは「ハーイ!」と元気よく応えていた。

参加者同士で声を掛け合い、スローの練習を行った
climbing/japan-series2020
講師がフライングディスクの投げ方の基本を丁寧に指導

 その後は、グループに分かれて、ディスタンスは一人3枚、アキュラシーはひとり5枚のスローに挑戦。さらに、ボウリングのピンやペットボトルなどの目標物、数字が書かれたボードを狙うゲーム感覚のスローも体験した。ピンを倒したり、数字が書かれたボードに当てたりすると、同じグループの参加者から歓声と拍手が自然と沸き起こるなど、一体感が生まれていた。

丸いアキュラシーゴールの真ん中を狙ってスロー!
climbing/japan-series2020
集中してボウリングのピンを狙う。時間が経つにつれ、みんな上達していった
数字が書かれたボードを射抜く。大いに盛り上がった

 途中で休憩をはさみながら、約1時間半にわたり楽しんだ参加者たち。足立特別支援学校に通う16歳の中山亜美(なかやまあみ)さんは、「フライングディスクは中学時代に体験したことがあった。数字の的を狙うのが楽しかった。2枚当たった」と、少し息を弾ませながら感想を述べてくれた。母親の智恵子(ちえこ)さんによると、学校の配布プリントで体験教室の開催を知り、参加を決めたという。智恵子さんは、「コロナ禍で障害がある子はとくに家にこもりがちです。それに、余暇の過ごし方が課題だったので、日曜日に外で身体を動かせてよかったです。仲間づくりや保護者の交流の場にもなりました。コンディション維持にもいかせるので、ぜひヨガ教室なども開いてほしいです」と語ってくれた。

「コロナ禍でもみんなと身体を動かせてよかった」と語った中山さん親子

「楽しかった」の経験を地域の活動につなげたい

 講師とともに参加者をサポートした髙野洋(たかのひろし)さんは、2018年から体験教室にボランティアとして関わっているといい、「自分自身も楽しむことを心掛け、また参加者にとって便利な存在となり、楽しむことを後押ししたいと思って参加しています」と語る。障害者フライングディスク教室への参加は3度目で、初めて屋外での運営を経験した。「体育館とグラウンドでは準備や流れの段取りが違いました。どう対応していくか、次回以降の課題になりますね」と振り返った。

休憩中はボランティアがしっかりとディスクを消毒。髙野さん(右)は2018年から当事業にボランティアとして関わる

 東京都障害者フライングディスク協会の吉田力男(よしだりきお)会長は、「フライングディスクは『競技』と『競戯』の両面を楽しめるのが特徴です。『技』を競うこと、そして『戯れ(たわむれ)』を競うこと、それらを体験してもらう環境を整えるのが講師側の仕事。今日は保護者もスローに挑戦してもらい、みんなが一緒に楽しむことができたと思います」と参加者全員の体験参加を喜んだ。また、「体験教室を開いて終わりになりがちですが、参加した人が地域でクラブチームを作り、地域の人を巻き込んで活動してくれることが一番の目標。レガシーを残していけるような仕組みづくりにつなげたい」と、次のステップへの想いも語ってくれた。

「体験教室に参加して終わりではなく、地域で活動が広がるような仕組みづくりが必要」と吉田会長は話す

 学校、東京都障害者フライングディスク協会、ボランティアの理解のもと実現した今回の体験教室。安全に配慮しながらプログラムを組むことで、コロナ禍においても楽しく身体を動かし、スポーツの魅力発見や仲間づくりができることが、参加者に伝わったのではないだろうか。

 その他にもさまざまな工夫を凝らし、多くの方に参加してもらえる体験教室を企画しております。興味を持った方は、ぜひ遊びに来てください! 詳しくはホームページ(https://www.tef.or.jp/business/school/)でご確認を。

(取材・文/MA SPORTS、撮影/植原義晴)