HOME大会・イベントレポートIBSA Judo東京国際オープントーナメント大会

大会・イベントレポート詳細

IBSA Judo東京国際オープントーナメント大会

目指せパリ!視覚障害者柔道の世界トップ選手が集結!

 国際視覚障害者スポーツ連盟(以下、IBSA)公認の「IBSA Judo東京国際オープントーナメント大会」が12月11日、柔道の総本山である講道館で開かれた。東京2020パラリンピック競技大会(以下、東京2020大会)後に日本で初めて開催される視覚障害者柔道の国際大会。パリ2024パラリンピック競技大会(以下、パリ2024大会)のランキングポイント付与対象大会となっており、アジアを中心に10カ国から52人のトップ選手がエントリーした。

メイン画像

階級変更の瀬戸選手が男子73㎏級(J2)で優勝!

 東京2020大会後、視覚障害者柔道界は大きな変化のときを迎えた。IBSAは2022年1月に国際クラス分けを変更(※)。これまでは障害の程度ではなく体重階級別に男子7階級、女子6階級で実施されていたが、男女ともJ1(全盲)とJ2(弱視)の2クラスに分かれ、それぞれ4つの体重階級に統合された。IBSA公認の国際大会やアジアパラ競技大会、パラリンピックはこの新ルールで行われる。

※国際クラス分け変更

男子

東京2020大会(計7階級) パリ2024大会(計8階級)
J1(全盲) J2(弱視)
60㎏級 60㎏級 60㎏級
66㎏級 73㎏級 73㎏級
73㎏級 90㎏級 90㎏級
81㎏級 90㎏超級 90㎏超級
90㎏級
100㎏級
100㎏超級

女子

東京2020大会(計6階級) パリ2024大会(計8階級)
J1(全盲) J2(弱視)
48㎏級 48㎏級 48㎏級
52㎏級 57㎏級 57㎏級
57㎏級 70㎏級 70㎏級
63㎏級 70㎏超級 70㎏超級
70㎏級
70㎏超級

 新ルールによって勢力図が変わる中、東京2020大会の男子66㎏級で銅メダルを獲得した瀬戸勇次郎(せとゆうじろう)選手(福岡教育大※大会当時)は、同73㎏級(J2)に階級を変更してパリ2024大会出場を目指している。今大会は4選手による総当たりのリーグ戦に挑み、初戦で藤本聰(ふじもとさとし)選手(徳島視覚支援学校教員)に小内返しで一本勝ちすると、カザフスタン人選手に対しては開始1秒で豪快に背負投げを決め、組み合った状態で試合が始まる視覚障害者柔道ならではの勝利で会場を沸かせた。3戦目の韓国人選手にも技ありの合わせ技で一本勝ちし、頂点に立った。

 東京2020大会以降、増量に取り組んでいる瀬戸選手。経過は順調だといい、「この階級には81㎏級から階級を下げて臨む選手もいる。体格に優れた彼らに対抗するにはパワーが必要。強みであるスピードとうまく融合させて戦っていければ」と話した。

背負投げで韓国人選手から技ありを奪う瀬戸選手(下)

新ルールでチャンスが広がる全盲クラス

 男子90㎏級(J1)は5人がエントリーし、60歳の松本義和(まつもとよしかず)選手(オルソグループ)が粘りの柔道で全勝し、総当たりのリーグ戦を制した。もともとの主戦場は同100㎏級。パラリンピックはシドニー2000大会で銅メダルを獲得、アテネ2004大会は12位の成績をおさめ、4大会ぶりに出場した東京2020大会では7位に入った実力の持ち主だが、実はキャリアを通して国際大会での優勝は初めてだといい、「ひとつの勲章をつかめて嬉しい」と笑顔を見せた。

 59歳で臨んだ東京2020大会を最後に引退するつもりだったが、新ルールによって再び道が開かれたという松本選手。「以前は弱視の選手と戦うと負けることが多かったが、今は全盲の選手のみで競える。だからこそ負けられないという面もあるが、パリではメダルに届く可能性が出てきた。目の前のチャンスに挑戦しようという気になった」と、現役続行を決断した理由を明かす。

 週に4日は道場で汗を流し、2日は筋力トレーニングに励んでいる松本選手は、ウズベキスタン人選手とのゴールデンスコア(延長戦)でも体力負けしなかった。「負荷が強い稽古を継続してきたことが結果につながったと思う。今後も挑戦を続けて、視覚障害者柔道界に恩返しができたら」と話した。

 また、同73㎏級(J1)で2位に入った加藤裕司(かとうゆうじ)選手(伊藤忠丸紅鉄鋼)も、新ルールについて「全盲の選手にとってはチャンスが広がったのでは」と語る。「全盲の選手は一人で走り込みができないし、映像による研究でも視力のある人に教えてもらわないと分からない。柔道の力の差は少なくても、畳に上がる前の差が何十倍もある。そういう意味では、公平性が増したと思う」と率直な想いを口にする。

 障害の程度による柔道のスタイルの違いについては、「J2(弱視)は素早い動きをしながら足技を出したりするのに対し、J1(全盲)はあまり動かず、大きな技を掛け合うようなスタイルが多い」と分析し、「やりやすくはなっているが、それはほかの選手にとっても同じ。自分ももっと足技を出して相手を崩す稽古をしていきたい」と、力強く語った。

男子90㎏級(J1)を制し、表彰台で笑顔を見せる松本選手(中央)
加藤選手(左)は「(新ルールは)全盲の選手にとってはチャンスが広がったのでは」と語る

混戦の女子57㎏級(J2)は廣瀬選手が制す

 4人がエントリーした女子57㎏級(J2)は、11月の世界選手権で銅メダルを獲得した廣瀬順子(ひろせじゅんこ)選手(SMBC日興証券)が優勝した。インドネシア人選手との初戦は、大内刈りから袈裟(けさ)固めと流れるように技を決めて勝利した廣瀬選手。2戦目も石井亜弧(いしいあゆみ)選手(三井住友海上あいおい生命保険)から得意の寝技で一本勝ちし、3戦目は工藤博子(くどうひろこ)選手(シミックウエル)とのゴールデンスコアの接戦を制した。

 国内において、女子選手はもともと競技人口が少なかったが、新ルールによって状況が一変したのがこの階級だ。工藤選手は同63㎏級から、石井選手は同52㎏級から階級変更し、もっとも層が厚くなった。石井選手は試合終了後、「(パリ2024大会を視野に入れて)57㎏級での出場は今大会が初めてだったけれど、試合の運び方の感覚は良かった」と、手ごたえを感じた様子だった。2位に入った工藤選手は廣瀬選手との激闘を振り返り、「パワーが足りなかった。パリに向けて、互いに切磋琢磨していければ」と話し、また廣瀬選手も「対戦するたびに課題が出てきて、それを克服することで強くなれていると思う。国内での戦いに勝って、世界大会の代表に選ばれるよう頑張りたい」と、言葉に力を込めた。

得意の寝技を積極的に狙いにいく廣瀬選手(上)
工藤選手(左)と石井選手(右)の試合はゴールデンスコアにもつれ込む接戦になった

女子48㎏級(J2)は藤原選手が全勝優勝

 女子48㎏級(J2)は3人がエントリー。藤原由衣(ふじわらゆい)選手(モルガン・スタンレー・グループ)がリーグ戦全勝で優勝を果たした。藤原選手は東京2020大会の同52㎏級5位で、新ルールで実施された今年9月の全日本視覚障害者柔道大会は同57㎏で出場していた。そこから厳しい減量を経て階級を下げる決断をした理由について、「身長が低く(152㎝)、自分のなかでは52㎏級がベストだったので悩んだけれど、挑戦しようと思った。技の精度をもっと上げて、パリは48㎏級で目指したい」と話し、前を向いた。また、同70㎏超級(J2)は2人がエントリーし、西村淳未(にしむらあつみ)選手(日本視覚障害者柔道連盟)がウズベキスタン人選手に2連勝して優勝した。

階級変更を経て女子48㎏級(J2)を制した藤原選手(奥)
パリ2024大会に向けて「力をつけていきたい」と話した西村選手(右)

 2023年12月には、東京体育館で「IBSA柔道グランプリ東京大会」が開催される予定だ。グランプリ大会はパラリンピック競技大会、世界選手権に次ぐ大きな大会で、東アジアでの開催は初となる。パリ2024大会のランキングポイント付与率が高く、世界の精鋭たちによるレベルの高い戦いとなることが予想される。特定非営利活動法人日本視覚障害者柔道連盟 パラリンピック柔道監督の髙垣治(たかがきおさむ)さんは、「地の利を生かして頂点を獲りにいきたい」と意気込みを語った。

(取材・文/MA SPORTS、撮影/植原義晴)