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World Para Swimming公認2022ジャパンパラ水泳競技大会

各クラスで好記録が続々誕生!

 「World Para Swimming公認2022ジャパンパラ水泳競技大会」(以下、今大会)が9月17日から3日間にわたり、横浜国際プールで開催された。今大会では大別して身体障害、知的障害、聴覚障害の障害種別で競技を行っており、さらに身体障害は視覚障害を含めて13のクラスに分かれ、クラス別に競技を行っている。昨年の東京2020パラリンピック競技大会(以下、東京2020大会)や今年6月のマデイラ2022WPS世界選手権(以下、世界選手権)、5月にブラジルで行われた第24回夏季デフリンピック競技大会(以下、デフリンピック)のメダリストらトップスイマーも参加し、32個の大会新、19個の日本新、2個のアジア新記録が誕生した。また、今大会は3年ぶりに有観客で実施。3日間で3,000人以上が観戦に訪れ、大会を盛り上げた。

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福田果音選手と南井瑛翔選手がアジア新記録を樹立!

 好記録が誕生した今大会。肢体不自由クラスの女子100m平泳ぎ(SB8)では、高校1年の福田果音(ふくだかのん/KSGときわ曽根)選手が予選を1分25秒68で泳ぎ、アジア新記録を樹立。今大会は、世界選手権後に取り組んだキック力の強化が実ってタイムにつながったと分析し、「世界のトップ選手に近づけるように頑張りたい」と話した。福田選手は200m個人メドレー(SM9)、50m自由形(S9)も制し、3冠を達成した。

福田果音選手は女子100m平泳ぎ(SB8)でアジア新記録をマーク

 また、南井瑛翔(みないあきと/近畿大)選手は優勝した4種目のうち、男子100mバタフライ(S10)決勝で1分00秒22をマーク。自身が持つアジア記録を塗り替えた。世界大会では1分を切れば決勝進出が見えてくることから59秒台を目標としていたが、惜しくも届かず、ゴール直後は悔しそうな表情を見せていた南井選手。「(11月の)日本パラ水泳選手権で記録が出せるよう練習したい」と話し、前を向いた。

男子100mバタフライ(S10)でアジア新記録を樹立した南井瑛翔選手

注目のライバル対決の結果は⁉

肢体不自由クラスでは今大会はライバル対決が活発化し、見ごたえあるレースが多かった。

 男子100m背泳ぎ(S8)では、東京2020大会5位の窪田幸太(くぼたこうた/NTTファイナンス)選手と、6月にその窪田選手が持つ日本記録を更新した荻原虎太郎(おぎわらこたろう/セントラルスポーツ)選手が直接対決に挑み、窪田選手が荻原選手に競り勝った。窪田選手は「6月に荻原選手が背泳ぎでバタフライのキックを入れて泳いでいるのを見て、今回僕も取り入れてみた。1回で進む距離が伸びた」と手ごたえを感じた様子。荻原選手は「負けて言葉が出ない」と悔しがりつつもライバルの泳ぎを認め、パリ2024パラリンピック競技大会(以下、パリ2024大会)に向けては「幸太と一緒に表彰台に乗れたら嬉しい」と、語った。

 男子S5クラスでは、田中映伍(たなかえいご/個人)選手が50m背泳ぎ、50mバタフライ、50m自由形で、いずれも東京2020大会日本代表の日向楓(ひなたかえで/宮前ドルフィン)選手に次いで2位に入り、存在感を示した。両選手とも先天性の両上肢欠損で、ほぼ足の力のみで泳ぐスタイルだ。国内では選手層が薄いクラスのため、両選手にとって互いが貴重な競争相手。日向選手は田中選手について「週に1回、一緒に練習する仲間であり、一番近い存在」と語り、大きな刺激になっていると明かした。

男子50m背泳ぎ(S5)の表彰式で並ぶ日向楓選手(中央)、2位の田中映伍選手(左)、3位の菅原紘太選手(右)

 エントリーが昨年の4人から8人に倍増した男子50m自由形(S9)は、山田拓朗(やまだたくろう/NTTドコモ)選手が26秒62で制した。2位には0.18秒差で岡島貫太(おかじまかんた/日本福祉大)選手が入った。

 この種目は、パラリンピック5大会連続出場の山田選手がけん引。そこに頭角を現した若手の岡島選手や3位の川渕大耀(かわぶちたいよう/宮前ドルフィン)選手らが加わり、国内でもレベルの高い争いが展開されるようになった。山田選手は若手選手の台頭を歓迎しつつ、「僕が現役で泳ぎ続ける間は、意地でも勝ちたい」と、鋭い視線を前に向けた。

熾烈なレースを制し、存在感を示した山田拓朗選手

世界選手権メダリストが存在感

 視覚障害クラスでは、世界選手権で3個のメダルを獲得した辻󠄀内彩野(つじうちあやの/三菱商事)選手が、女子50m自由形(S13)、100m自由形(S13)、200m個人メドレー(SM13)を制した。無観客開催の東京2020大会を経験している辻󠄀内選手は、今大会が有観客となったことを喜び、「大学時代の恩師や家族が来てくれた。同じ空間に心の拠り所があると思うと心強い」と笑顔を見せていた。

力強い泳ぎでレースをけん引した辻󠄀内彩野選手

 世界選手権の女子100m背泳ぎ(S11)金メダリストの小野智華子(おのちかこ/あいおいニッセイ)選手は、この得意種目を1分22秒04で泳ぎ、優勝した。狙っていた21秒台には届かなかったが、「後半にバテないのが強みなのでそれを維持し、前半の速さを追求していきたい」と振り返り、さらなる飛躍を誓った。

 男子50m自由形(S11)はただ一人、木村敬一(きむらけいいち/東京ガス)選手が出場し、大会新記録をマークした。木村選手はこの種目では腰のブレを安定させる姿勢づくりに取り組んでいるといい、スピードに乗った泳ぎを見せた。東京2020大会で金メダルを獲得した100mバタフライ(S11)には今大会はエントリーせず、「いろいろ試行錯誤しているところ。今は50m自由形の泳ぎの精度を上げることに集中し、まずは自己ベスト更新を目指す」と話した。

新星・木下あいら選手が4種目で日本新!

 水泳は知的障害の選手がパラリンピックに出場できる数少ない競技でもある。知的障害クラス女子で最多の6種目にエントリーした木下あいら(きのしたあいら/個人)選手は、100m自由形(S14)、200m自由形(S14)、100mバタフライ(S14)、200m個人メドレー(SM14)の4種目で日本新記録を樹立する活躍を見せ、大きなインパクトを残した。木下選手はスポーツ庁によるアスリート発掘事業「J-STARプロジェクト」の5期生で、池江璃花子選手に憧れる16歳。これからの成長が楽しみだ。

木下あいら選手は4種目で日本新記録をマークした

 東京ゆかりの選手では、令和4年度「東京パラアスリート強化事業」認定選手の松田天空(まつだあんく/NECGSC)選手が、得意種目の100mバタフライ(S14)で優勝を果たした。世界選手権ではこの種目で8位に入り、世界のトップ選手の泳ぎに刺激を受けたという松田選手。レース後は「技術とリズム感を磨いていきたい」と、力強く語っていた。

今年の世界選手権にも出場し、今後の活躍が楽しみな松田天空選手

 東京2020大会の金メダリストの山口尚秀(やまぐちなおひで/四国ガス)選手は、男子100m平泳ぎ(SB14)決勝で2位に5秒以上の差をつける圧巻の泳ぎで優勝。パリ2024大会での連覇を視野に、「コンディションをしっかり整えて、自分にできる最善を尽くして目指したい」と、意気込みを語った。

デフリンピックで活躍した選手が優勝!

 ジャパンパラ競技大会は聴覚障害の選手も出場している。聴覚障害クラスの齋藤京香(さいとうきょうか/山梨学院大)選手は、今年行われたデフリンピックの女子100mバタフライの金メダリスト。今大会もこの100mバタフライ(S15)、50mバタフライ(S15)、200m個人メドレー(SM15)で圧勝した。14歳の平林花香(ひらばやしはなか/上宮学園)選手は、得意の背泳ぎ2種目(S15)でトップに立ち、100m自由形(S15)は大会新記録をマークした。今年のデフリンピックではリレー2種目で銀メダルを獲得した星泰雅(ほしたいが/マイナビパートナーズ)選手は、男子50m平泳ぎ(SB15)、100m平泳ぎ(SB15)で優勝を果たした。

2025年のデフリンピックでも活躍が期待される齋藤京香選手

 聴覚に障害がある選手のスタートの仕方はさまざまだ。たとえば、齋藤選手と平林選手は「テイクユアマーク」のアナウンスとピストル音はわずかに聞こえるとして、他クラスの選手と同様に音を聞いてスタートするという。一方、星選手は横を向き、スターターが持つピストルの先が発する光に反応する。「僕もギリギリ聞こえるけれど、音よりも光の方が速いことを知っているので、あえてピストルを見て飛びこむ」のだそうだ。その言葉のとおり、星選手は50m平泳ぎ予選でリアクションタイム「0.50」と素晴らしい反応を見せ、レースを優位に運んだ。

スタート時に横を向き、ピストルが発する光に反応して飛び込む星泰雅選手

 次回のデフリンピックは、2025年に東京で開催される。自国開催について、3選手はそろって「デフリンピックの認知度向上」への期待を口にする。3年後の本番はぜひ会場で、スタートなどに工夫を凝らして臨む選手のパフォーマンスに注目してみてほしい。

(取材・文/MA SPORTS、撮影/植原義晴)